少し前ですが、本年度のアカデミー長編ドキュメンタリー映画賞を受賞した『フリーソロ』を見てきました。
“フリーソロ”とは高い崖や岩肌を、ロープや安全装置等一切使わずに素手で登るクライミングのことで、本作の主人公はその若き第一人者アレックス・オノルド。
カメラは、彼がカリフォルニア・ヨセミテ国立公園にそびえる970メートルの絶壁エル・キャピタンに挑む様子を追います。
映画を見るまで、私は「きっとこの映画は命綱なしで岩をよじ登る命知らずなアウトローの物語なんだろう」と思っていました。
常人にはわからない超人的メンタリティの持ち主を取り上げたドキュメンタリーに違いない、と。
しかし、私の予想は見事に裏切られました。
なぜアレックスがフリーソロに挑めるのか。
それは、しっかりと事前に準備をするからなのです。
ロープや装具を付けて(つまり命綱がある状態で)、アレックスはエル・キャピタンのクライミングコースを何度も何度も辿ります。
練習中はもちろん失敗して転落し、ロープに助けられることもしばしば。
それでも彼は諦めることなく、ストイックに練習を続けるのです。
彼の姿を見ていると、フリーソロは向こう見ずな行為ではない、と腹の底から思えてきます。
フリーソロをやっても絶対に死なない、という自信があるからこそ挑めるのです。
それだけ練習しているということなのです。
練習に裏打ちされた自信なのです。
日本の人気テレビドラマの主人公に、
「私、失敗しないので」
という決め台詞を言う女医がいます。
彼女の場合も、手術の前にあらゆる可能性をシミュレーションし、何が起きても大丈夫なように準備しているからこそああいう言葉が言える、ということが明らかになるエピソードがありました。
まさにアレックスも、「失敗しないので」と言えるほど準備するわけです。
もちろんフリーソロのクライマーの中には、失敗して転落し、命を落とした人もたくさんいます。
映画の中でも語られますが、フリーソロはオリンピックのような一発勝負の大舞台に似ているそうです。普段通りやっていれば確実に金メダルなのに、何かちょっとしたことでミスし、メダルを逃してしまう。
フリーソロの場合、それは死に直結します。
そういう意味では誰でもチャレンジできるスポーツとはとても言えません。
しかし、それでも尚、肉体および集中力を鍛え上げ、長期に渡る綿密な準備をするからこそ、失敗のリスクを極限まで下げることができる、ということは言えると思います。
そしてそれが、死の恐怖を克服する唯一の方法なのでしょう。
準備が大事なのはフリーソロだけではありません。
何事も同じです。
例えば学会発表や卒研のプレゼンテーションも、事前に十分な準備をしていれば、緊張も和らぐでしょうし、失敗するリスクも減少します。
就活の面接もそうでしょう。
練習、練習、また練習、です。
成功や栄光は、その先に待っているのです。
どれだけ練習すればいいのかわからない、という人は、是非『フリーソロ』を見てみてください。
でも、高所恐怖症の人は、ちょっとだけ覚悟してくださいね。
#フリーソロ #映画
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